先に結論:カスハラ対策は、問題が起きてから弁護士や警察へ対応を依頼するだけのものではありません。「どこまで現場で対応するか」「いつ責任者へ引き継ぐか」「何を記録するか」を事前に決めることが、問題の深刻化を防ぐ第一歩です。
カスハラとは?正当なクレームとの違い
カスタマーハラスメント、いわゆる「カスハラ」とは、顧客などからの要求や言動のうち、要求内容やその手段・態様が社会通念上許容される範囲を超え、従業員の就業環境を害するものです。
強い口調の苦情が、すべてカスハラになるわけではありません。商品やサービスに問題がある場合の正当な意見には、企業として誠実に向き合う必要があります。一方、暴言、脅迫、長時間の拘束、過度な謝罪要求、同じ要求の執拗な繰り返しなどについては、従業員個人に対応を任せない仕組みが必要です。
2026年のカスハラ対策義務化で企業は何をする?
「カスハラ防止法」という名称で検索されることがありますが、今回の義務化は、改正された労働施策総合推進法に基づくものです。企業には、カスハラに対する方針の明確化、従業員への周知、相談体制、発生時の対応、従業員への配慮などを、実際に運用できる状態へ整えることが求められます。
単に「カスハラを許しません」と宣言するだけではなく、現場が迷わず行動できるルールへ落とし込むことが大切です。
大ごとになる前に整えたい7つの社内ルール
1.会社としての対応方針を明確にする
顧客の声には誠実に対応する一方、従業員の安全や尊厳を損なう言動には、会社として毅然と対応する方針を示します。経営者だけが理解している状態ではなく、管理職、電話対応者、受付担当者など、顧客と接する可能性のある従業員へ周知します。
2.正当なクレームとの判断基準を決める
相手の言葉だけで自動的に判断せず、要求内容の妥当性、通常のサービス範囲、言動の手段や継続性、従業員の就業環境への影響を確認します。業種やサービス内容によって適切な判断は異なるため、自社に合った基準が必要です。
- 要求内容に理由や妥当性があるか
- 通常のサービス範囲を著しく超えていないか
- 暴言、脅迫、差別的発言などがないか
- 長時間の拘束や繰り返しの連絡がないか
- 従業員の就業環境に大きな影響が出ていないか
3.電話対応の言葉と終了基準を決める
電話によるカスハラでは、担当者が通話を終了できず、長時間拘束されることがあります。注意を伝える言葉、責任者へ交代する条件、通話を終了する条件を決めておきます。
例えば、暴言が続く場合には一度注意を伝え、それでも改善されない場合は通話を終了するなど、段階的な対応方法を共有します。担当者が社内ルールに沿って電話を終了した際に、個人の判断として責められない運用も重要です。
4.通話の録音と記録方法を整える
電話録音や対応記録は、事実関係を確認するための材料になります。ボイスレコーダー、電話録音システム、コールセンターの通話記録など、自社の環境に合った方法を検討します。
ただし、録音機器を導入するだけでは対策になりません。日時、相手の要求、具体的な言動、会社側が説明した内容、同席者、従業員への影響、次回の対応方針を共通の形式で記録します。録音データや個人情報は、利用目的、保存期間、閲覧権限を決めて適切に管理します。
5.社内相談窓口と引き継ぎ先を決める
従業員がカスハラを受けたとき、誰に相談すればよいか分からない状態では、問題が表面化しないまま深刻化する可能性があります。上司、人事、総務、経営者などから社内相談窓口を決め、従業員へ周知します。
窓口を設置するだけでなく、相談を受けた後に誰が事実を確認し、誰が対応方針を決めるのかまで明確にします。
6.弁護士や警察へ相談する基準を決める
すべてのカスハラ対応を、最初から弁護士へ依頼する必要があるわけではありません。一方で、次のような問題は社内だけで抱え込まず、早い段階で外部へ相談する必要があります。
- 暴力や脅迫、従業員へのつきまといがある
- 不当な金銭や土下座を要求されている
- SNSなどで従業員の個人情報を公開されている
- 業務妨害が繰り返されている
- 法的な判断に迷う、または従業員の心身に深刻な影響が出ている
弁護士へ相談する基準、警察へ連絡する基準、顧問先や外部相談先を、問題が起きる前に整理しておきます。
7.研修と振り返りを継続する
カスハラ対策マニュアルや本を配布するだけでは、実際の対応方法までは身につきません。電話対応、責任者への引き継ぎ、記録、相談窓口の利用方法などを、研修や動画を通じて確認します。
自社で起こり得る場面を想定したロールプレイも有効です。発生した事案を担当者の責任追及で終わらせず、商品説明、契約条件、接客方法、社内ルールの改善へつなげます。
AIや録音機器を導入するだけでは解決しない
電話録音、カメラ、AIによる会話分析などは、対応を支援する手段として活用できます。しかし、機器やAIが自動的にカスハラかどうかを決めるわけではありません。
誰が記録を確認し、どの基準で判断し、どの段階で責任者へ引き継ぐのかという運用ルールが必要です。設備導入と社内ルールづくりをセットで考えることが大切です。
よくある質問
カスハラ対策では電話をすべて録音するべきですか?
録音は事実確認に役立ちますが、導入だけで対策が完了するわけではありません。利用目的、保存期間、閲覧権限を決め、対応記録や社内の判断手順と組み合わせて運用します。
カスハラは最初から弁護士へ相談するべきですか?
日常的な苦情対応は社内ルールに沿って進められますが、暴力、脅迫、つきまとい、不当な金銭要求、個人情報の公開、業務妨害などがある場合は、早期に弁護士や警察などへ相談します。
小規模な会社は何から始めればよいですか?
まず、会社の基本方針、責任者へ引き継ぐ条件、共通の記録項目の3点を決めます。その後、相談窓口、研修、外部相談の基準へ広げます。
カスハラ対策は「問題が起きる前」に
カスハラ対策の目的は、顧客を敵とみなして排除することではありません。正当な意見には向き合いながら、行き過ぎた言動から従業員を守り、問題が法的対応を必要とする段階まで深刻化することを防ぐ取り組みです。
まずは、自社で決まっていることと、担当者個人の判断に任されていることを整理してみてください。
参考情報
本記事は2026年8月23日時点の公開情報をもとに作成しています。個別事案で法的判断が必要な場合は、弁護士や社会保険労務士などの専門家へご相談ください。